ブレイディアDELTA 第26話「DELTA」
「どうしても怒りを見せないならいい・・私はあなたを超えて、今度こそ悲劇を終わらせる・・・!」
怒りと力を爆発させる牧樹。彼女はブレイドを構えて、みなもと秋葉に迫る。
そこへ戻ってきたいつきが飛びかかり、牧樹にブレイドを振りかざす。だが牧樹の発している力による衝撃で吹き飛ばされる。
「いつき!」
たまらず叫ぶ秋葉のそばに、いつきが着地する。
「2人とも無事だったようですね・・!」
「トオルさんは・・・!?」
「先ほど目を覚ましました・・零球山の外まで連れて行きました・・・!」
みなもの問いかけにいつきが答える。
「ですが、2人のことを心配しています・・もしかしたら、またここに戻ってくるかもしれません・・」
「そんな・・・でも、トオルさんらしいね、そういうところ・・・」
不安を口にするいつきに、みなもが物悲しい笑みを浮かべる。
「そういうことなら、急いで終わらせないといけないね・・秋葉、いつき・・・!」
「そうだね・・トオルさんをこれ以上巻き込めないし・・」
「すみません・・私が至らないためにこんなことになってしまって・・・」
呼びかけるみなもに秋葉といつきが答える。
「その心配はいらないよ・・私もすぐに終わらせるつもりだから・・・」
そこへ牧樹が冷徹に声をかけてきた。
「それに、あの人もすぐに追わせてあげるから、さびしがることはないよ・・・」
「そうはさせない・・あなたを止めて、みんなを守る・・・!」
牧樹に言い返し、みなもがブレイドを構えて鋭い視線を向ける。
「私は分かったの・・みんなに支えられて、みんなと支え合っていくことが、こんなにもすばらしく心強いことを・・秋葉も、いつきも、トオルさんも、みんながいたから今の私がある・・・」
みなもは言いかけて、秋葉といつきに目を向ける。
「あなたの考えで、私たちの楽しい時間を壊されたくはない・・・」
「それこそ自分の考えの押し付けじゃない・・どこまでも勝手なこと・・・!」
「そうやって孤独になって、孤独を増やそうとしているから、あなたには、私たちの楽しい時間が理解できないのよ・・」
みなもが投げかけてきた言葉を聞いて、牧樹が目つきを鋭くする。
「あなたにもそんな時間があった・・その時間を望んでいた・・それを見誤ってしまって、逆に壊そうとしている・・・」
「見誤っているのはあなたたちのほう・・・でももう何を言っても意味がない・・・」
みなもの言葉をさえぎって、牧樹が力を込めて衝撃波を放つ。
「そこまで私を悪者だと思いたいなら、そこまで自分を押し通したいなら、私を倒したらいい!」
「言われなくてもそのつもりです・・たとえあなたを倒してでも・・・!」
牧樹に言い返すみなもも力を込めて、ブレイドを強くする。2人が同時に飛び出し、ブレイドをぶつけ合う。
みなものブレイドは牧樹のブレイドに負けていなかった。
「こんなに強いのに・・怒りが全然こもっていない・・どうしてそこまで・・私は怒りを覚える相手なのに・・・!」
さらに怒りを募らせる牧樹が、力任せにみなもを突き飛ばす。体勢を整えようとする彼女に、牧樹が追撃を仕掛けようとする。
だが牧樹は追撃をやめて上に飛んだ。秋葉といつきが飛び込んで、ブレイドを振りかざしてきていた。
「当てられると思っていたのに・・・!」
「牧樹さんが私たちを警戒しているとは・・・!」
悔しがる秋葉と、牧樹の回避を不審に思ういつき。飛び上がった牧樹が、2人に向けて降下しながらブレイドを突き出してきた。
「いけない!あれを受けたら!」
「2人とも、すぐに退避です!」
声を上げる秋葉といつき。みなもも2人と同時に牧樹の突進を回避しようとする。
だが牧樹の突進による衝撃は強く、みなもたちは吹き飛ばされてしまう。3人は激しく横転し、力なく横たわる。
「今度こそ最後よ・・まずは獅子堂秋葉と神凪いつきから・・・」
牧樹が秋葉といつきに近づき、ブレイドを構える。
「そのくらいのことでは・・私たちは諦めない・・・!」
そこへみなもが声を振り絞り、さらに力を振り絞って立ち上がる。
「私も、秋葉もいつきも、簡単に負けたり、弱音を吐いたりはしない・・どんなに力のある相手でも、絶対に諦めない・・・!」
「たとえ諦めなくても、私はあなたたちを超えていく・・現にあなたたちは私に敵わず、倒れている・・」
視線だけをみなもに向ける牧樹。彼女は秋葉といつきにブレイドの切っ先を向ける。
「そしてこれから、私にとどめを刺される・・あなたたちは、どうあっても私を止めることができない・・・」
「そんなことはない・・・!」
そこへトオルが駆け付け、声をかけてきた。
「ト、トオルさん・・・!」
トオルの登場に動揺を膨らませるみなも。必死にここに向かってきたため、トオルは息を絶え絶えにしていた。
「わざわざ戻ってくるなんて・・そんなに私に斬られたいというの・・・?」
「そうじゃない・・・オレには君やみなもちゃんたちのような力はない・・でもこうして、そばにいることはできるから・・・」
冷徹に告げる牧樹に、トオルが声を振り絞る。
「私には・・そばにいる人などいない・・・」
牧樹が悲しみを噛みしめて、トオルにブレイドの切っ先を向けてきた。
「大切な人がいなくなる悲しみを終わらせるためにも、ブレイディアは滅びないといけないのよ・・・!」
「ブレイディアがいるから、悲しみが増えるのではない・・・!」
牧樹の言葉をみなもが否定してきた。
「その人の心や行為の過ちが、悲しみや苦しみを生みだしている・・悲劇を生みだしているのは、悲劇を消そうとして過ちを犯している、あなた・・・」
「過ちを犯しているのはあなたたち・・もう何度言ってきたか・・・」
みなもの言葉を再三拒絶する牧樹。
「もう言葉は無意味・・そういうならば、私たちは信念で理解させるだけ・・・」
「あたしたちはまだ・・負けたつもりなんてないから・・・」
秋葉といつきが力を振り絞って立ちあがってきた。
「諦めない限り、私たちはあなたには負けない・・それに、私たちはあなたのように、1人ではない・・・!」
みなもがブレイドを前にかざし、秋葉といつきが交差させるように自分のブレイドを重ねてきた。
「みんなが、そばにいる・・みんなで支え合っているから・・・」
3人のブレイドがまばゆい光を放つ。光はみなものブレイドに収束されていく。
(みなもさん、私たちの思いを、あなたに託します・・・)
(みなもちゃんなら何とかしてくれる・・あたしたちはそう信じてる・・・)
心の中でみなもへの信頼を寄せるいつきと秋葉。2人のブレイドのエネルギーを受けて、みなものブレイドの輝きがさらに増した。
(ありがとう、秋葉、いつき・・トオルさんも信じてくれてありがとうございます・・・みんなの気持ち、ムダにはしない・・・!)
感謝と決心を胸の中に秘めていくみなも。真剣な目つきとなった彼女が、巨大になった自分のブレイドを構えた。
「2人から精神力を受け取って、ブレイドを強くしたのね・・・それでも、私は負けない・・・」
牧樹も怒りを膨らませて、ブレイドを構える。
「全てのブレイディアがいなくなれば、みんなが幸せになれるのだから!」
目を見開いた牧樹がみなもに飛びかかり、ブレイドを振り下ろす。だが彼女の一閃はみなもを捉えていなかった。
みなもは突っ込んでいた。彼女が突き出したブレイドは、牧樹の体を貫いていた。
「そんな・・・見えなかった・・私が、全く・・・!?」
自分がみなもを見失ったことに、牧樹は目を疑っていた。力が入らなくなり、彼女は手にしていたブレイドを落とす。
「私1人だけの心ではない・・みんなの思いがこもっている・・みんなの願いは、あなたの怒りをも超えている・・・」
みなもが低い声音で牧樹に言いかける。
「あなたが怒りに振り回されていなかったら、私たちの気持ちを理解していたし、この一撃もよけられた・・・」
「そんなことで・・・そんなことで私が負けるなんて・・・絶対にありえない・・・」
みなもの言葉が信じられずにいる牧樹。彼女の体から光の粒子があふれてきていた。
「あなたの心と命は、ブレイドよりも怒りに結びついていたようですね・・怒りが浄化されることで、あなたは命も散らしてしまう・・ブレイドを折られたブレイディアのように・・・」
「・・もう私には、怒りしかなかったっていうの?・・・そんなことはない・・・私には・・私には・・・」
みなもに言葉を返そうとする牧樹の視界に、自分が想いを寄せていた青年の姿が入ってくる。
「幸せを望む心がまだ、残っていたんだから・・・」
みなもに満面の笑みを見せる牧樹。怒りが消えていった彼女は、心からの笑顔を見せていた。
その喜びを胸に宿したまま、牧樹の姿が揺らぎだした。彼女の体は光の粒子となって霧散し、消失していった。
ブレイディアへの激しい憎悪と力にさいなまれていた牧樹だったが、みなもによってその因果と呪縛から解放されることとなった。
「そうですね・・・恋と夢、幸せを望んでいたから、このような激しい怒りが生まれてしまった・・・私も分かります・・私も、そんな怒りを覚えたことがあったから・・・」
牧樹の思いを素直に感じ取っていくみなも。彼女も手にしていたブレイドを消していた。
「みなもちゃん・・・」
トオルが戸惑いを浮かべて、みなもに歩み寄ってきた。
「トオルさん・・・」
「これで終わったの、みなもちゃん?・・・これで、何もかも・・・」
同じく戸惑いを浮かべるみなもに、トオルが問いかけてくる。するとみなもが沈痛の面持ちを見せる。
「まだブレイディアが私たちだけになったとはいえません・・私たちのやっていることで、誰かが悲しい思いをしているかもしれません・・・」
みなもは自分の気持ちを口にして、自分の胸に手を当てる。
「でも、私はそれも受け止めるつもりです・・その上で、みんなとの時間を過ごしたい・・・」
「みなもちゃん・・・オレもだよ・・オレも、一緒の時間を過ごしたい・・・」
トオルは微笑みかけて、みなもを優しく抱きしめる。
「ライムもきっとそれを望んでいる・・ううん、これはオレの、正直な願い・・・」
「トオルさん・・・」
トオルの言葉にみなもが戸惑いを浮かべる。彼女もトオルとの抱擁を交わしていく。
「いやぁ、ラブラブだね、お二人さん♪」
そこへ秋葉に声をかけられ、みなもが赤面する。
「いけませんよ、獅子堂さん・・からかっては・・・」
「だって見ていてドキドキしちゃうんだもん♪」
苦言を呈するいつきだが、秋葉は上機嫌のままだった。そこへみなもが迫り、秋葉を睨みつけてきた。
「秋葉・・あなたはいつもいつも・・・」
「じ、冗談だって〜・・かわいいジョークだって〜・・・」
「全然かわいくないわよ!」
苦笑いを浮かべる秋葉の頬を、みなもが思い切り引っ張る。
「いだい!いだいよ、みなもぢゃん!」
「問答無用!」
声を上げる秋葉に怒鳴るみなも。2人のやり取りを見て、いつきもトオルも笑みをこぼしていた。
医師から改めて負傷した腕を診てもらった結花。病室に戻ったところで、彼女は牧樹が消えたことを感じ取った。
「どうだった、腕の具合は・・・?」
病室で待っていた一矢が声をかけるが、結花は牧樹のことを気にしていた。
「おい、どうしたんだ、結花・・・?」
「牧樹が、いなくなった・・・みなもたちがやったのか・・・」
さらに声をかけてくる一矢のそばで、結花が呟きかける。
「牧樹ちゃんが・・・!?」
「イヤでも感じてきていたアイツの気配が、零球山の辺りから感じなくなっている・・・もう、牧樹は・・・」
驚きの声を上げる一矢に、結花がさらに呟く。
「牧樹ちゃん・・・助けることは、できなかったんだ・・・」
「いいや・・アイツは救われたんだ・・ブレイディアに対する怒りと憎しみから・・・」
歯がゆさを覚える一矢に、結花が物悲しい笑みを見せる。
「牧樹は自分自身の怒りを抑えることができず、苦しんでいた・・みなもと対峙することで、アイツはその苦しみから解き放たれることとなった・・・」
「こんな解放でよかったのか?・・何だか、やるせないな・・・」
「やるせないことなど、この世界にはいくらでもある・・アイツだけじゃない・・みなもたちも、私も・・・」
「そしてオレもか・・・ホントに参るな、こりゃ・・・」
淡々と言いかけてベットに入る結花に、一矢が肩を落とす。
「だがこれで一応は落ち着けるところまできた・・このつかの間の休息を楽しむことにする・・・」
「つかの間だなんて・・これからも精一杯楽しもうぜ・・みんな気楽にさ・・・」
「せいぜい能天気にならないようにな・・・」
一矢と屈託のない会話をすると、結花はベットで横たわり、そのまま寝てしまった。
「ところで、腕は平気なのか・・・?」
最初に投げかけていた問いに答えてもらえず、一矢は唖然となっていた。
みなもの牧樹との決着。それが今回のブレイディアの戦いの本当の幕引きとされた。
激闘を終えたみなもたちは日常へと戻っていった。
牧樹との戦いから数日がたった日の昼休み、みなもは秋葉といつきとともに学園の校舎の屋上にいた。
「ん〜ん♪今日も気分のよくなる天気だねぇ〜♪」
「何を言っているのよ・・授業中居眠りして、気持ちよさそうに寝ていたくせに・・」
大きく背伸びをする秋葉に、みなもが呆れてため息をつく。指摘された秋葉が照れ笑いを見せる。
「それにしても、ホントに穏やかだね・・今までのことがウソみたいに・・・」
「でも今のこの場所にライムはいない・・それはどうしても否定できない・・・」
秋葉が口にした言葉に対し、みなもが悲しみを口にする。
「ですが、ライムさんは今も見守っています・・あまり後悔しすぎても、逆にライムさんを心配させるだけですよ・・」
そこへいつきが微笑みかけ、みなもと秋葉を励ましてきた。勇気づけられた2人も笑顔を取り戻す。
「そうね・・・こうして楽しい時間をすごしているのに、悲しいことばかり考えるのはライムに悪いわね・・・」
「ライムちゃんは、あたしたちの中にいる・・だからあたしたちが元気でいないとね♪」
顔を見合わせて元気を見せるみなもと秋葉。いつきも2人の元気に喜びを感じていた。
「では、私は行くわね。トオルさんに声をかけてくる・・」
みなもは大きく背伸びをしてから、屋上を立ち去ろうとする。
「おやおやぁ?今日のみなもちゃんは積極的だねぇ♪」
「いつもトオルさんから誘われてばかりだからね。たまには私から声をかけないと・・」
にやけてくる秋葉に、みなもが微笑みかける。だが彼女の顔が突然強張る。
「ついてきたらお仕置きするからね、秋葉・・・!」
「う、うん・・分かってるって・・・」
みなもに忠告されて、秋葉が苦笑いを浮かべる。そしてみなもは改めて屋上を去っていった。
「本当に楽しそうですね、みなもさん・・・」
「今まで見たことのない、心からの笑顔だね・・・これからは2人の幸せを信じることにするよ・・」
微笑みかけるいつきに、秋葉は笑顔を見せた。2人はみなもとトオルの幸せを改めて願っていた。
トオルのクラスの教室に向かうみなも。その途中の廊下で、彼女はトオルと遭遇した。
「みなもちゃん、どうしたの、突然・・・?」
「トオルさん・・すみません、いきなり押し掛けてしまって・・・」
問いかけてくるトオルの前で、みなもが呼吸を整える。
「トオルさん、今度の日曜日、何か用事はありませんでしょうか・・?」
「ううん・・その日はオレは用事はないよ・・・」
訊ねるみなもにトオルが笑顔で答える。
「ではまた一緒に出かけましょう。今度は遊園地はどうですか・・・?」
「遊園地か・・本当に楽しくなるね・・一緒に行ってみようか・・」
みなもの誘いをトオルは快く了承した。
「トオルさん・・ありがとうございます!」
喜びを感じながら、みなもが深々と頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくていいよ、みなもちゃん・・リラックスして、心から楽しくやろう・・」
「そ、そうでしたね・・すみません、トオルさん・・・」
トオルに励まされて、みなもが苦笑いを浮かべていた。
(私はこれからの時間を楽しんでいく・・私らしく、真っ直ぐに・・・)
自分らしく、これからの時間を過ごしていこうと心に秘めるみなも。
もう怒りも悲しみもない。自分の信じる道を進んでいく。乙女たちの心は、真っ直ぐ未来に続いていた。